著作権部会 2006年第2回研究会


著作権部会2006年度第2回(通算第8回)議事録

〔日 時〕 2006年6月16日(火) 午後6時~8時
〔場 所〕 日本弁理士会館B1
〔出席者〕 秋田孝宏,牛木理一,尾崎博彦,龍村全,内記稔夫,
馬場 巌,三木宮彦(50音順)
〔報告者〕 尾崎博彦(弁護士・会員)
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〔議事内容〕
研究議題:マンガの著作権侵害の態様の分析 その2
1 前回に引き続いて「どこまで似ていれば著作権侵害となるのか」という視点からの研究発表である。

2 前回、類似性についてはマンガは絵柄、構図、吹き出し等のせりふや文章、ストーリーといった各要素に分割できること、それぞれの要素について類似性が問題となりうること、を指摘し、各要素のうち、絵柄及び構図について考察をした。

3 今回は、前回に積み残した、絵柄以外の要素(擬態語等の漫符、せりふ、ストーリー)についての類似性を検証することで著作権侵害の有無の基準を考えることとした。
(1)漫符について
この点については、全くオリジナルな符号も考えられるが、多くの場合、既存のテキストに独自の装飾を加えて絵柄中に挿入されることが多い(例えば、「ドカーン」とか「ちゅどーん」などの擬音語、擬態語を想定されたい。)。
これは一種の「書」ないし「書体」に類似すると考えられ、これに関する裁判例が参考となろう(「動書事件(1)」東京地判昭和60年10月30日認容,「動書事件(2)」東京地判平成1年11月10日棄却)。
そこから推測するならば、マンガ中に用いられる符号についても、それ自体に著作物性が認められる可能性は否定できないものの、当該マンガから独立した表現 であると認められること、それ自体が真にオリジナリティがあること、が必要であり、実際に著作権侵害とされる場合はきわめて狭いと解される。
(2)吹き出し等に挿入されるせりふやナレーション、解説などについて
「吹き出し」内の「せりふ」はおおむね日常の会話文であることが多く、これらについて創作性が認められることは極めて少ないと考えられる。ただし、マンガ 中に挿入された解説など、それ自体独立の文章として創作性が認められる場合には、それ自体が著作権の保護を受け得る。
(3)ストーリーについて
マンガのストーリーは、それ自体独立の著作権法上の保護を受ける。マンガのストーリーについて著作権侵害の有無が争われた裁判例はあまり多くないが、代表例として、「先生,僕ですよ事件」東京地判平成10年6月29日(棄却)がある。
判決では「本件著作物の表現形式上の本質的特徴を本件番組から直接感得することができることが必要である」とした上で、基本的なストーリーおよびテーマ、ストーリーの流れ、表現された各画像、のそれぞれについて対比して判断した。
裁判においては、他の表現物(文芸作品)の場合でも、同様な個別の対比をすることでストーリーの類似性を判断する手法をとるようである。ただ、マンガの場 合、ストーリーの表現手段としての「絵(画像)」の類似性もその判断要素となるようであり、この点がマンガの著作権侵害の特質といえるのではないだろう か。(注)

4 まとめ
以上のように、マンガを構成する各要素(絵、構図、符号、文章、ストーリー)に分解して、それぞれについて著作権侵害の判断がなされるかを分析をしてみ た。ただ、これらの要素のそれぞれの類似性が問題となっている場合に、他の要素がどの程度影響を与えるのかという点などは、今後さらに掘り下げて研究する 余地があると思われる。      <以上,尾崎 博彦>

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