著作権部会 2005年第1回研究会


〔日 時〕 2005年4月26日(火) 午後5時~8時
〔場 所〕 日本弁理士会館第3会議室(東京都千代田区霞ヶ関3)
〔出席者〕
秋田孝宏、牛木理一、龍村全、堤健太郎、米沢嘉博、三木宮彦
〔講 師〕熊田正史(京都精華大学教授)
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〔議 事〕
第1回の会合時に最初に問題となったマンガ制作の実情について、マンガの作られ方が法律関係者を含めた一般人にはよく知られていないから、マンガ制作の諸 事情を知ることは、マンガの著作権問題を考察するために必須であるとして、元小学館の編集部におられた熊田正史氏を講師に呼んで話を聞いた。
また、堤会員から予め質問書(別紙)が用意されていたから、これに沿って話はすすめられた。熊田正史氏は、少年向けマンガの編集の経験しかないので、少女マンガについては詳しくないという前置きがあった。
1.漫画家になるプロセス
現在、漫画家になるには、新人賞への投稿か、持ち込みが主であり、場合によっては韓国、台湾などのアジアの作家を編集部がスカウトすることもあり、これらの国々からの売り込みもある。

2.マンガ制作をとりまく当事者
各出版社は、通常の営業などの部署に加え、編集部、海外版権部、著作権管理部(映画化、アニメ化、ドラマ化などの契約代行等)、キャラクター室(キャラク ターの積極的売り込み)、編集総務(差別語の問題、その他のチェック)などを持っている。ただし、出版社によって名称や細かな役割が異なることはある。
プロダクションは、複数の作家を抱え、アシスタントを共有にするタイプのものは減り、作家の税金対策が目的の会社化が主流となっている。
専属制度は現在では集英社が主に行い、他の出版社は作家によって、あるいは力のある新人と結ばれることはあるが、それほどこだわっていない。それは、近 年、作品の(特に絵の)密度が高くなっているため、1人の作家が週刊連載を複数こなすことは事実上不可能となっていることがある。そのために、アシスタン トの重要性は高くなっている。
原作者は、通常の場合、漫画家と原稿料、印税などを折半する。持ち込まれた原作を編集者、漫画家などで検討している中で、より発展した面白い作品に仕上 がった場合、了解を得て「原案」とすることがある。この場合は原案料が一括払いされ、単行本化されたとき企画料として2%程度の印税が支払われることがあ るが、ケースによって異なる。
原作の持ち込みは、テーマ、キャラクターデザイン、粗筋、第一話の原作を揃えた企画書のような形態が多いが、ネームの形で持ち込まれることもある。

3.制作過程
企画は、余程の大物作家の作品でない限り、編集部が決める。これは通常、ある作家にはどのようなテーマをあてがうかという形で行われる。例えば、「ラブコ メ」などのテーマを決め、他の作品との差別化、新しい視点を検討し、タイトルを決めた上で作家に提示される。作家と編集者の打ち合わせ(ブレーンストーミ ング)によってストーリーが作られることが多いが、中には編集者が原作、原案に近いものを作っている例もある。
また最近のマンガは、高いリアリティが求められるので、綿密な取材が必要となっている。取材費は編集部が持つ。
週刊連載の作品を持つと、考える時間や余暇を持てないほどの仕事量になるので、作品の内容に編集者が関わる必要が増えているといえる。こういった作家と編 集者の関係も出版社によって傾向が見られ、例えば講談社は、編集の企画が先行する形で制作され、小学館は作家性が比較的尊重される傾向にあるといえる。
各回毎の作業は平均して、①打合わせで1日、②プロットとネームで1日、③下絵、ペン入れ、仕上げ、校了で3~4日である。
制作にあたって必要な権利処理は、既製の小説を漫画化する場合は改めて書き下ろすわけではないが、原稿料、印税を支払っている。建造物を写真にとって絵に 起こす場合は支払いをしていない。ただし、企業の看板は原則として変更している(小学館の方針)。
取材をもとに作品を製作した場合、取材者には取材謝礼を支払っている。ただし、実在の芸能関係者の場合、芸能プロからの売り込みの場合は支払いは発生しな い。出版社側から申し込む場合、概ね、表紙やグラビアなどの紙面に当該プロの所属タレントを使うなどで相殺することが多く、印税等が発生しない慣習になっ ている。スポーツ選手の場合は所属団体に了解をとり、何がしかの謝礼が支払われることが多い。
完成した作品が偶然、他の作品と似てしまうことがまれにあるが、気がつけば校了段階で落としたり、可能ならば直したりすることがある。ただしこれは編集部の仕事である。
現在、雑誌の売り上げの大きな部分をコンビニが占めているので、わいせつ表現はコンビニにおけるかどうかが大切になり、自主的に抑えているところがある。 差別的表現に関しては、編集総務がチェックしているが、編集段階で最も気をつけているところである。名誉やプライバシーに関することについては気をつけて いるが、社内的なチェックシステムはない。個人情報保護法への対処にも気を配っている。
原稿はデータ化されるので、すぐに返すようにしているが、作家によっては出版社で管理してほしいと希望されることもある。

4.出版社と漫画家との間の契約関係
小学館の場合、少年マンガの印税は10%、少女マンガの場合、低い印税から始まり、発行部数が伸びれば印税が上がるというシステムが採用されるが、通常は発行部数に関係なく印税は10%となっている。

5.出版のされ方
今後、見込みのある新人や、ある部数以上の売り上げが見込める作家の作品の描き下ろし単行本が増えるかもしれない。また、コンビニ廉価版は出尽くされた感があるが、これまでマンガとは関係の薄かった出版社から発行される可能性はある。

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