日本マンガ学会設立趣意書


今日の日本において、マンガは、娯楽の一種としてのみならず、言語や映像とはまた異なる、独自の形式を有 するメディア、ないしコミュニケーション手段としても、社会のきわめて広い範囲にわたって、浸透しています。 その文化的・社会的重要性に関する意識は、急速に盛んになりつつある日本のマンガの海外への輸出などとも関 わって、昨今ようやく高まりつつあると言えるでしょう。

それにともなって、大学でマンガを研究する教員や学生が増え、美術館でのマンガ展が珍しくなくなり、平成14年度施行の中学校学習指導要領に「漫画」と いう言葉が入ったことがニュースになるなど、「アカデミズム」や「教育」とマンガとの関係は、大きく変わりつつあるように見えます。

しかしながら、そうしたジャーナリスティックな話題を離れて、マンガの研究・評論の内実を冷静に見つめるならば、マンガに関わる多様な問題領域の大きさ と重さ、そして何よりもその面白さに、見合うだけの水準に達しているとは、言いがたいのが現状です。

むしろ、次々に現れる新しい話題と膨大な情報量に引きずられる形で、過去の成果や課題が生産的に蓄積されぬまま、研究・評論の個別分散化が進みつつあり ます。史資料・書誌の整備や関連情報の収集・交換、あるいは海外からの研究者の受け入れも含めた人的交流のための環境づくりなどを、積極的に進めていく必 要があると考えられます。

アカデミズムの場にマンガを持ちこむことは、アカデミズムという「権威」がマンガを「認知」するとか、アカデミズムの枠内に押し込める、といった営みで はあってはならないはずです。そうではなくて、従来、この二つを縁遠いものにしてきた価値観や認識の枠組みそのものを、根本的に問い直す営みでなければな らないでしょう。それは、急速に解体・再編の進む今日の人文・社会科学全体の動向に対しても、重要な貢献になりうるはずです。

また、マンガを通じた企業活動や地域振興事業も盛んになりつつある昨今、生産的な「産学協同」のあり方を検討するためにも、いわゆる「大学人」以外の人 々-在野の評論家・収集家・愛好家、企業や自治体などの事業担当者、など-を交えて、マンガを「学問」することの作用/反作用を広く検討する場も必要とな るでしょう。

以上のような問題意識に基づき、日本マンガ学会を設立することにいたしました。私たちにとってマンガとは、かつて、何であったのか、いま、何であるの か、そしてこれから、何でありうるのか。こうした問いを、自分のものとして持つ人が、互いの考えを知り、自らの考えをより豊かなものとしていく場を作るこ と。マンガとそれにまつわる事柄に、何らかの関わりを持つ多くの方々のご参加をいただき、アカデミズムの新しいありようを模索するものでもあるこの試み に、取り組んでいきたいと考えます。

2001年7月29日
日本マンガ学会第1期役員一同

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