著作権部会 2006年第1回研究会


著作権部会2006年度第1回(通算第7回)議事録

〔日 時〕 2006年4月19日(水) 午後6時~8時
〔場 所〕 日本弁理士会館会議室
〔出席者〕 秋田孝宏,牛木理一,尾崎博彦,龍村全,内記稔夫,三木宮彦,米沢嘉博(50音順)
〔報告者〕 尾崎博彦(弁護士・会員)
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〔議事内容〕
研究議題:マンガの著作権侵害の態様の分析 その1
マンガにおいてこれまで、様々な著作権問題が検討されてきたが、「絵や構図がどこまで似ていれば著作権侵害となるのか」という視点からの研究がなされてこ なかった。マンガ界はこのような類似には、絵、構図は文学における文体のようなものであり、また以前からマンガ界全体としてヒット作の模倣を基礎として成 り立ってきた経緯があることから、比較的寛容であったので、問題とならなかったのであるが、現実に訴えが起こされた場合どのようになるのかは、法律的に検 討しておく必要があるのではないだろうか。

例えば、去年話題となった「スラムダンク事件」は、社会的影響が大きかったにもかかわらず、ネットなどで話題となったり投書があったというが、原著作者自 身の意思が伝えらない段階の、実際には事件になっていない時点で、作品の回収、絶版がおこなわれてしまった出来事である。ここの事例で細部にわたる検討が 必要であるが、根底にある問題は、例えばあるスポーツの動きを効果的に表現する場合、余り多くの構図があるわけではないという実態と、これが法律問題と なったときにどうなるかということである。

おそらくマンガ界からこの種のことで法律問題として訴えが起こされる可能性は低いと考えられるが、それでも「スラムダンク事件」の場合のように、著作権侵 害として問題になる以前の段階で絶版になるような影響が出ている以上、法律上の検討がなされるべきであるという立場からの問題提起である。

まず、侵害が成立するためには、原著作物に依拠していることと、原著作物に類似しているという要件が必要であるが、ある著作物に依拠したが、全く違うもの ができた場合には何の問題ともならないし、依拠していなくとも、類似の度合いが高い場合は侵害が疑われかねないなどの事情もあるので、類似性のほうが重要 であると考えられる。したがって、もっぱら類似性ないし同一性の要件について検討が中心になると考えられる。

そこで絵について考えると、「絵柄」と「構図」という要素に分けられ、それぞれについて類似性が問題となるケースがあると思われるが、マンガ界で、この点 が法的に争われた事例はない。似たようなケースとしては、絵柄について争われたものとして「ケロケロケロッピ事件」がある。あるイラストレーターが、自分 の描いたカエルの絵柄とサンリオのキャラクターのケロケロケロッピが類似していると訴えたもので、第一審では逐一、手や輪郭など部分的に比較することで類 似性を検討するという手法が取られ、サンリオ側に侵害がないとされた。まずこのような分析的な比較検討の方法が妥当なのかという問題が残る。控訴審では、 部分的にみると細かな違いが出てくるが、それ以前に完成されたキャラクター全体の類似性を比較すべきという主張もされたが、この場合はキャラクターとして のオリジナリティの高さが問題とされた。つまり、誰が描いても似てしまうとか、争われているもの以前に同様のキャラクターがあったのではないかなどという ことである。この点控訴審は、カエルをモチーフにしたものとしては原告の図案が特にオリジナリティに富んだものとはいえないとして、図案全体の類似性を認 めなかった。

また、マンガの場合の類似性を考えるにあたって、例えば同じタッチで全く違うキャラクターが描かれた場合や、アイディアが浮かんだという表現として電球を 頭の上に描くなどのような、誰もがまねをしたがる効果的で独創的な表現が現れた場合、今後これに対する法的な保護を求めるような動きが起らないだろうか。 そうした場合の、どこまで当該表現技法に著作権法上の保護を与えるか、一方で、これらの表現技法はアイデアの領域に過ぎないとして共有財産として利用でき ると考えるのか、その境界線の調整については今後の検討課題であろう。

なお、次回は5月30日(火)午後6時ですが、同一議題の<その2>を検討します。

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