カトゥーン部会2011年度第2回研究会


Ⅰ日時
2011年10月29日(土)14:00~18:00

Ⅱ場所
早稲田奉仕園セミナーハウス102号室
東京都新宿区西早稲田2-3-1
03-3205-5411
http://www.hoshien.or.jp/map/map.html

Ⅲ報告者・論題
 ⑴池上 賢(立教大学)
 1論題:「マンガ経験とアイデンティティ
――マンガ読者のパフォーマンスに対するエスノメソドロジー的考察」
 2研究会概要
本研究会では、インタビューの場面において、人々が自らのライフストーリーにおけるマンガ経験を語る中で、アイデンティティをパフォーマティブに構成・提示する過程について分析を加え報告した。筆者が行った調査では、マンガについて人びとが語る際に自身のアイデンティティを構成・提示する可能性があることが示唆され、その具体的な実践過程について分析する必要性が浮上した。
そこで、本報告では、協力者の中から、特に重要なマンガ経験を持つ人に対して行った追加インタビューにおいて語り手のアイデンティティが提示された場面を析出し、エスノメソドロジーの視座により分析した。その結果、マンガ経験を媒介にしたアイデンティティの構成・提示過程として、登場人物に焦点化し、作品のテーマを同定し女性としてのライフストーリーにおいて「新鮮」だったものとして構成する過程や、作品を「仕事マンガ」というジャンルに属する作品として同定し、大人の世界を見せてくれたものとして構成するという過程が見出された。これらの事例から、マンガ読者はマンガ経験を語る際に、自身のアイデンティティに関わるものとして、作品や経験を能動的に再構成していることが明らかにされた。
以上の報告内容に対して、参加者からは本報告と先行する議論の関係性について、それらに対して批判的になるのではなく読者を対象としたことの意義をより主張したほうが良いのではないかという意見が示された他、本報告の事例は読者が成長後に改めて読むことにより可能になっているものではないかという指摘、読者の世代ごとの特徴にも議論が広がる可能性、あるいは文中の表現など関する改善点が示されるなど活発な議論が行われた。

⑵ 重吉知美
1論題:「短歌における大衆文化の受容」
2研究会概要
 本報告では、笹公人歌集『抒情の奇妙な冒険』(2008)の内容を紹介した。
 まず、短歌の創作の場についての背景を説明し、本歌集がどのような特色を持つかを
示した。通常の歌集が作者の個人的な経験を詠むのに対し、この歌集は、架空の人物(2008年時点で四十代中盤にあたる世代)の立場で詠んでいる。また、詩歌専門の出版社からではなく、早川書房から「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」として刊行されている。現役漫画家(とり・みき)の挿絵がついているのも特徴的である。
 本歌集では、マンガの登場人物、特撮作品やテレビ番組、タレントなどが「昭和の懐かしいもの」、すなわち高度経済成長期の日本社会を象徴するものとして繰り返し引用されていた。歌壇からの評価として、大手商業誌における書評を紹介した。懐かしい昭和の再現を肯定的に評価する意見、記憶の単純な再構成に懐疑的な意見などがある。
 質疑応答では、歌壇の文化的背景を中心に質問された。SF作品としても出版されたという事実も指摘され、SF読者にはどのように受容されたかを調べるとよいというアドバイスを受けた。また、文学と挿絵との関係、短歌と俳句の文化的相違点、「記憶」の研究などと議論が展開した。今後は、作者の他作品の分析、同じく架空を詠んだ寺山修司・塚本邦雄らとの比較、SF読者からの評価の分析などを課題としていく。

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